吉備高原サラブリトレーニングからのお知らせ
いつも吉備高原サラブリトレーニングに多大なるご支援をいただき誠にありがとうございます。私たちは現在、引退サラブレッドが幸せなセカンドキャリアを送ることができるよう、スタッフ一丸となって一所懸命リトレーニングを実施しております。しかしながら、ご支援いただいている皆さまより「なかなか見学が出来ない」「馬の現状がわからない」などのお声が多く聞かれるようになって参りました。このことは私たちにとって、早期解決すべき重大な問題だと認識いたしました。吉備高原サラブリトレーニング事務局および「サンクスホースプロジェクト」運営側と協議を重ね、解決に向けて具体的に展開していくこととなりました。これまで皆さまよりいただいたご不満やご意見に対して心よりおわび申し上げるとともに、現状の課題および今後の解決策につきまして、まずは皆さまにご報告申し上げます。
現状について
【リトレーニング】
- 引退馬たちの毎日
吉備高原サラブリトレーニングでは2018年9月現在、18頭の馬がリトレーニング中です。2016年の発足以来、年々受け入れ頭数を増やしながら「1頭でも多く」セカンドキャリアにつなげることを目指しています。引退サラブレッドは100%の健康体で入舎するわけではなく、身体的な故障や精神的なダメージを負っている馬も少なくありません。まず休養させたり、精神的な不安を取り除いたりと一頭一頭それぞれに合った方法で、無理がないようリトレーニングを実施しているため、かかる時間も馬によってまちまちなのです。
- リトレーニング費用
馬達のリトレーニングに係る費用は、皆さまよりお預かりした「ふるさと納税」から80%と、大半が賄われております。その他はセールにて売買された取引での売上が15%、チャリティグッズ販売などが5%余り。それが運営費のすべてで、助成金などは一切いただいておりません。つまり現在、引退馬の幸せなセカンドキャリアは、皆さまからの「ふるさと納税」によって支えられているといって過言ではないのです。馬達のリトレーニングには、毎日の食餌や馬房管理費、リトレーニングのためのスタッフ人件費だけでなく、手術費や医療費、環境を良好に保つための設備をはじめ光熱費、馬を輸送するための馬運車関連費用などが必要です。しかし、頭数の増加を目指して全国から受け入れようとすればするほど、運営費すべてを「ふるさと納税」などのご寄付のみで賄うことが次第に困難になってきています。
【人員状況】
- リトレーニングスタッフ
株式会社岡山乗馬倶楽部に業務委託し、現在は5名が担当。約60頭を飼育管理をしています。「馬が大好き」という愛情はもちろん、プロとして十分な知識とスキルを持って馬達に日々向き合っています。
- 馬房管理スタッフ
主に清掃など、馬房環境を良好に保つための管理業務を、障がい者就労支援A型事業所「PAKARADo(パカラドゥ)」へ業務委託しています。清潔な飼育環境が常に維持されるだけでなく、障がい者の皆さんの雇用確保策として、今後も整備・拡充が期待されています。しかし、どんどん増加する馬に対して、時間がかかる障がい者の人員確保・育成が追いついていません。
- 事務局スタッフ
皆さまからの電話やメール対応をはじめSNSによる情報発信など広報活動、イベント企画・実施運営、さらにはふるさと納税の発送業務、行政・他団体との調整などあらゆる業務を2名体制で実施しています。
- 人員確保について
上記のとおり、少数での業務展開を余儀なくされているのが現状です。随時人員の確保を目指して採用活動だけでなく自治体との連携による「地域おこし協力隊」への要請も実施しているものの順風満帆とは言えない状況が続いています。しかし、皆さまからお預かりしたご寄付を活かせるよう、何より馬達の未来を信じて、一人ひとりが精鋭となり、真摯に懸命に取り組んでいます。正直、就労環境としてまったく問題がないとは言えない状況の中にありながらも、馬達の幸せのために努力を続けています。
【皆さまからいただいたご意見と回答】
- 見学について
◆寄付だけでなく、馬に会いたい
◆見学に人と時間、費用がかかるならその分馬に反映してほしい
◆日によって見学内容がまったく違う
◆見学禁止の馬写真がSNSにアップされていた
これまで、馬の見学は事前にお問い合わせ・ご予約いただいた方のみに対応、という形を採っておりました。その理由としては「スタッフが確保できておらず、見学できる体制が整っていない」「馬の心身状況がまちまちのため、事故につながる恐れがある」などが挙げられます。しかし、中にはなんのご連絡もなく飛び込みで見学を求められたり、許可なくSNSにアップして拡散されてしまったりといったことも日常的に起こっています。馬達にとってはリトレーニングが最大の目標です。繊細な馬達は知らない人間と接するのがストレスになることも多く、結果リトレーニングが遅れることにもなりかねません。馬ファンとして、同じ想いで皆さまに見守っていただくことが、馬達にとって最大の応援になるとご理解いただければ幸いです。
しかしながら、皆さまに詳しい情報をお届けするとともに「サンクスホースプロジェクト」の理念“引退馬に会いに行ける場所”としての環境整備を進めることは私たちの義務でもあります。リトレーニングを優先するあまりに、皆さまへのご対応がおろそかになっていたこれまでを反省し、今後は解決に向けて進んでいく所存です。
課題解決に向けて
【見学対応の見直し】
- 月1回「サラブリト見学デー」を開催
これまでご希望者に対して随時対応してきましたが、月に1日「見学デー」として開放いたします。
〈概要〉吉備高原サラブリトレーニングの馬の状況が見学できる特別な1日。
見学コースを設置し、ふれあい体験やえさやり体験なども予定。
〈参加費〉お1人様 1,000円(税込)
※いただいた参加費はリトレーニング費用として充当いたします。
〈お申し込み方法〉事前予約制 ※予約フォームより事前予約
※予約がない場合は参加いただけないコンテンツがあります
〈実施予定日時〉
◆11月3日(土) 10:00~15:00
◆12月22日(土)10:00~15:00
◆1月27日(日) 10:00~15:00
◆2月9日 (土) 10:00~15:00
◆3月10日(日) 10:00~15:00
- ご理解とお願い
吉備高原サラブリトレーニングは、観光牧場ではなく本来は見学やふれあい体験が可能な施設ではありません。引退サラブレッドのセカンドキャリアを導くためのトレーニング施設であり、“馬のための”施設です。しかし、皆さまのご要望にできるだけ寄り添える最善の策として「見学デー」の設置をさせていただきます。「いつでも会える」形にはまだ及んでいませんが、まずは皆さまのご理解をいただければ幸いに存じます。
おわりに
「1頭でも多くのサラブレッドを救いたい」
—なぜ、そこまでやるの? とのお声を頂戴することがあります。このプロジェクトは2016年、競馬の裏に隠されている哀しい現実を何とかしたい、という想いから立ち上げました。“1頭でも多くの引退サラブレッドを受け入れ第2の人生へ”をテーマとし、これまで活動を続けて参りました。活動開始から2年が経過した今、これまで大半を占めていた乗馬倶楽部ばかりがセカンドキャリア受け入れ先ではなくなってきたのです。ホースセラピーとして障がいのある子どもたちの療育に活躍する馬。福島県南相馬市の相馬野馬追をはじめとした伝統行事で主役となり地元に愛される馬。今、リトレーニングホース達は全国へと活躍の場を広げ、それぞれがさまざまな第2の生涯を楽しんでいます。その他にも、観光だけでなく獣医学、地域振興、さらには人材育成に関わるプロジェクトに馬を利用したいとの声もあり、引退サラブレッドの可能性はこれからどんどん拡がっていくことを肌に感じています。同時に、これまで変えようと声を上げながらも実現できなかった“改革”を進めていくことの難しさにも直面しました。頑なに守られてきた業界の慣習や人の意識を動かすには、相当な時間と努力が必要なのだ、と厳しい現実を突きつけられてもいます。それでも私たちは、このプロジェクトの大いなる意義を確信し、これからもさらに上を目指し、活動を継続する所存です。ご支援いただいている皆さまとともに手を携え、このプロジェクトの拡大を目指して1頭でも多くのサラブレッドをセカンドキャリアへ——。今後とも変わらぬご理解とご支援を賜りますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
一般財団法人ホースコミュニティ 代表理事代行 局 博一
特定非営利活動法人吉備高原サラブリトレーニング 理事長 西崎 純郎